= = = = = = = = = = = = = = 馬鹿恥漢 = = = = = = = = = = = = = = 美佐枝さんの部屋を出て寮を出ようとした時、かつての春原の部屋を通りすがった。 その時見た表札・・・名字は全然違っていた。 本当に何もかもが変わっていく・・・それは愁うべき事ではない。 でも、そんな哀愁を感じることができるのは、思い出が思い出じゃなくなっていくような・・・ そんな錯覚を覚えるからだろう・・・。 寮を後にした。 外に出ると春原が外で寝ていた。と言うか気絶していた。 つーか俺と美佐枝さんが話していた間こいつは誰にも話しかけられなかったのか。 不憫すぎるぞ。 「おい、春原、起きろ」 「う、う〜ん・・・もう食べれないッスよ〜・・・」 「・・・おい、てめぇ」 げしっ げしっ 「いたっ!いたたっ!いたいって!あ、岡崎か・・・学校?」 「・・・」 ぺっぺっ。 その顔につばを吐いてやった。 「って、てめぇ!喧嘩売ってんのか!」 「起きろ馬鹿」 「え?あれ?」 やっと今の状況が掴めたらしい。 「美佐枝さんは?」 「・・・」 そっとしておいてやれ・・・。 目で伝えた。が・・・ 「せっかく久しぶりにおっぱい揉もうと思ったのに〜」 久しぶり?お前揉んだ事無いだろうが。夢の中で揉んだ事あるのか。 「つーか俺に揉む揉む言わせるな!」 「はい?」 「俺はそんな変態な事はしねぇぞ、コラ」 「つーかあんた何言ってるかさっぱり訳わかんないッスよ!」 「寝ぼけてるのは俺か・・・」 相変わらず馬鹿な話をしていると、また久しい声が・・・ 「あーっ、朋也クン!」 「んぁ?」 「ぉ?」 「あ、勝平」 「下の名前で呼ぶなぁ!」 お前、未だに葛藤があるのか。 柊勝平。薄黄色の髪に、可愛い顔をしている男。が一つ年上。 身体も軟そうで、肩から荷物をかけた姿はいつも通り。 一応説明しておくと、春原は最初彼を見た時女の子だと思い込み、 それ以来彼が男だと知っても女の子だと思い込み続けて居たいらしい。 「嬉しいねーっ、ボクの名前覚えててくれたんだ」 「そりゃ、まぁ、な」 「で、こっちは下僕」 「ねぇ・・・あの人の中で僕って未だにそんな存在なの?」 春原が聞いてきた。 ここで勝平が現れるとは。また面白い事が起きそうだ。 「お前、まだバイト探してんの?」 「まさか、そんな訳ないよ」 確かに。あれから7年も経ってるんだ。 俺より年上なのに未だに仕事が見つかって無かったらヤバイ。 「椋は元気にしてるか?」 ってかこの質問はむしろ杏にすべきだったか。 「え、あ、う、うん、元気だよ」 彼は顔を赤らめて言う。 「椋?椋ってあの杏の双子の妹の椋ちゃん?なんで?」 いや・・・お前事情知ってるはずだが。受け入れられないのか? 「勝平はな・・・」 「下の名前で言うなぁ!」 ・・・。 「柊はな、」 「柊ちゃんと言えよ!」 ああ男春原、お前はなんてやつだよ・・・。 「勝平はな、」 「下の名前で呼ぶなよぉ!」 無視することにした。 「勝平はな、自分を好いてくれる椋のために、  好きな椋のために結婚して子供作って生きていくことにしたんだ」 「・・・」 「・・・」 「・・・」 「・・・春原?」 「・・・」 春原、またしばらくそうやって固まっていてくれ。 「と、朋也クン、そんな事大きい声で言わなくても・・・」 勝平はとても恥ずかしそうな様子で、俺の口を塞ぐように言ってきた。 「で、お前今何してんの?」 「ん?今日は非番だから街をぶらついてるだけだよ?」 「その荷物は?」 「大事なもの家に置いたままじゃ誰かに盗まれちゃうかもしれないじゃん」 「って言うか足はもう大丈夫なのか?仕事の内容は?  家って今家があるのか?そう言えば両親とかどうなってるんだ?」 「ちょ、ちょっと待ってよ、一遍にそんな応えられないよ」 久しぶりに会ったから聞きたいことがたくさんあった。 「足は・・・うん、もう、ホントに大丈夫だよ・・・  朋也クンと椋さんのおかげ・・・」 「医者のおかげだろ。俺は何もしてない」 「ううん、そんなこと無いっ」 勝平にしては結構な形相で言い寄ってきた。これが女の子ならドキッとするようだ。 顔が可愛いので、男とわからなかったらそのままドキドキしてそうだ。 春原なら男と分かっても勝手にドキドキしてそうだ。 「仕事は?」 「この街で、リハビリテーションアシスタントのアルバイトしながら  その関係の勉強をして数年そのまま仕事してたら、正社員になれたよ」 「凄いなお前」 それは純粋に思う。 「家って?」 「うん・・・椋さんと、子供と一緒に住んでるよ・・・」 勝平は頬を赤らめて恥ずかしそうに言った。 つーかその女の子っぽいしぐさは止めろ。 だから春原の馬鹿とかに女と間違えられるんだぞ。 お前、漢になりたいんじゃないのか。 「って、子供!?お前、子供居るのか!?」 「うん。あれ、言わなかったっけ?」 つーか今久しぶりに出逢ったばかりだ。 「今度会わせてあげるよ、これがまた可愛いんだぁ、エヘヘ」 鼻の下伸ばすのも止めろな。 「朋也クンはどうなの?」 「ああ、まぁ俺も居るぞ」 「何が?」 「子供」 「ええっ、ウソ!?」 俺とあまり変わらない年で子供持ってるお前が驚くなよ。 「これがまた可愛くて仕方が無いんだよ・・・」 つーか俺もコイツと同じか。 「ああ、今度是非、俺の子供とも合わせてやってくれ」 「うんっ」 しかし、何歳になってもコイツも変わらないよな・・・ 「おい、春原、いい加減起きろ」 立って目を開けたまま眠っている春原にビンタをかます。 ばしん!ばしん! ・・・めちゃほっぺ紅く腫れてます。 「目潰しちゃえばいいんじゃないの?」 勝平が恐ろしい事を言いながらその指を春原の目に持っていった。 ぷちゅっ。 「ウぎゃーーーーーーーー!!!!」 「ヤバ・・・今気持ち悪い感触がしたよ、朋也クンっ」 俺に言うな。 「ん?岡崎か?」 「え?」 芳野さんだった。 芳野祐介。葵色の髪に水色の作業着を来た男。 俺の仕事の先輩。 かつてはプロのミュージシャンだったが今は電気工。 渚の高校1年時の担任の先生・公子先生の夫さんでもある。 こう考えると、町の人とネットワークリンクがあるんだなと思ってしまう。 芳野さんは、たっ。と電柱から降りてきた。 「あれ、今日は非番じゃないんすか?」 「ああ、今朝仕事が入ってな」 「なら俺も手伝いますよ」 「俺の気持ちを無にするな」 「え?」 「この人は朋也クンに休みを与えるために働いてくれてるんだから  そこで朋也クンが働いたらダメだよ、てかカッコイイ!」 勝平は、芳野さんの電柱から降りた姿に見惚れていた。 「誰だコイツは?」 ああ、そう言えば芳野さんはコイツ初めてだったっけ。 「こいつですよ、かつて俺が相談したときの・・・」 「ほう・・・」 勝平が足の癌で死のうとしている時、それを助けようと椋と色々画策したが 手術をしてくれなくて、どうすればいいか芳野さんに訊いたのだった。 芳野さんは勝平をじろじろ見ている。勝平は恥ずかしそうにじっとしている。 「こいつ俺より一個年上ですよ」 自分で言ってみて今気付いたが、どうして俺より年上のヤツが年下っぽく見えるやつが多いんだ。 逆に年下の方が年上に見えたり、訳分からないぞこの町の人間は。 「お前も大変だったな」 芳野さんは勝平の肩に手を置き言う。 「だがそこに愛がある限り・・・  必ず幸せは訪れるだろう」 芳野さん、頼むから、初めて会った人に恥も無く恥ずかしい事歌わないでください。 「じゃぁ、俺はまだ仕事が残ってるから。岡崎、またな」 「あ、はい、お疲れ様です!」 仕事に去る芳野さんに、頭を下げて挨拶した。 「・・・」 「勝平・・・?」 「・・・カッコイイ・・・!」 ・・・。 愛をぼやき続ける芳野さん。 漢に憧れる可愛い勝平。 その少年に惚れる春原。 この街の男たちは何なんだ・・・。 いや、春原はこの町の人間じゃないか・・・。 けど今ここに居るからいいよな、うん。 「つーか、芳野さんが居たってのにお前はいつまでぼーっとしてんだよ、この」 目を勝平に潰されて、立ちながら器用に気絶していた。 「えっ、芳野さんって、芳野祐介!?」 春原は徐に目を覚ました。 「お前、天然な」 「なんでもっと早く言ってくれなかったんだよ!それならぼーっとしてなかったよ!」 いや、言わなかったら居てもぼーっとしてるのかよ。 「そういや、お前男らしいのがいいんだよな」 「カッコイイの憧れるよ!」 勝平が即答。 「それなら僕が居るじゃん!」 春原がここぞと名乗出る。 「え?キミ?ダメだよ、キミはトイレを這いずり回ってるゴキブリって感じだよ」 「うわははは!勝平!今のは的を得ていると思うぞ!」 「え?そうかなあ」 春原撃沈。 「そうだ、お前漢らしいのがいいって言ってたよな」 「うん」 「会わせてやろう」 「え?」 「いいからついて来い」 「う、うん」 「お前もだ」 「ひぃぃ」 お前、いつまで経ってもひぃひぃ言うのな。 本当に、高校時代に戻った気分だった・・・。