「はうーお腹空いたねー」 「うにゃ・・・そうだね・・・」 「ぴこー・・・」 元気なやつらだと思ったら先でへばっていた。 「それじゃぁ・・・お昼ごはんにしましょう〜」 唐突に遠野が出てきて、どこから出したのか敷物を引いてお弁当箱を出した。 ついでにお米券もばっとだした。マジシャンがトランプを両手に片方ずつ持って広げるように。かっこよかった。 聖がメスを出すときのしぐさに似ていた。それはかっこいいというか、怖い。 「遠野、それはいい」 「残念賞」 「おれに渡すなっ」 「残念賞」 「お前、実はたくさん持ちすぎてて少しいらないと思ってるだろ」 「ぴんぽーん。大正解なのでおまけ」 「コラ」 と言いながらもおれは2つ受け取っている。食い扶持が確保できるのは旅人にとって大事なことだ。 格好つけたくても所詮はこう言う事が事情に入ると負ける。悲しすぎる。おれはそんなに余裕の無い人間だったのか。 それはともかくとして、とりあえず森の中で昼食?(て言うか3時のおやつの時間だ)を取ることにした。 ここ一帯だけ雑林が少なく広場となっている。 森林浴するにはちょうどよい塩梅だ。 と言うことでここに落ち着くことにした。 おれは敷物の上で、森林に囲まれて寝ている。 旅で幾度か経験した。気持ちいい。 風は涼しく、辺りは静かだ。隣の喧噪を除けば。 ////////////////////////////////// 森 林 浴 //////////////////////////////// 「往人さんっ、何してるの」 「おれは寝てる。お前はあっちで楽しんでこいよ」 「往人さんも一緒じゃないとダメっ」 「おれは人付き合いは苦手なんだよ」 「大丈夫だってば、ほら」 「そんなに言うならお前が手本を見せてくれ」 「だから、往人さんが一緒じゃないとダメなのっ」 「・・・」 「往人さんは、私が一緒じゃないと、ダメ?」 「わかったよ」 「にはは」 観鈴ちん、勝利っ、と元気をよくする。 仕方ないなとおれは腰を上げ、みんなのところに向かったのだが・・・ 「ちるちるキーっク!」 「どぶぉ!!」 胸をジャンプキックされた。 どさっ。 「わっ、往人さん」 「豪快な負けっぷり、ぱちぱちぱち」 「うわぁー、往人くんどっかんサプライズだよぉー」 「ぴこぴこっ」 「あ、あのっ、大丈夫ですか・・・」 有蟻化だけがおれを心配してくれた。いつもなら遠野の役なのに、あいつは今日は向こう側か。 て言うか、激しく痛ぇ。おれ何か悪いことしたか? 「うにゃぁ〜いいサンドバッグだったよ〜」 「て、てめぇこのガキ・・・」 しかし肋骨が折れたかと思うほど痛ぇ。医者にかかるにもおれは身元不明の青年だ。 保険証とやらが無いので金がかかる。てか元々そんなに持ってねえ。絶対病気や怪我にかかる訳にはいかないのだ。 いや、一応通えるとしたら聖のところか。メスで切られて終わりだな。 ああ気が遠くなっていく・・・。観鈴の言葉に乗らなければよかった・・・騙された・・・。 ・・・ 「あ、往人さん大丈夫ですか・・・」 「往人さんっ」 気が付くとおれは眠っていた。 「往人さん、大丈夫?」 「観鈴?」 なんか頭の位置が高い気がすると思ったら・・・ 「だぁぁっ!おれは子供じゃないんだぞ!・・・ッテテテ・・・」 「まだ寝てなきゃダメっ」 おれは観鈴に無理やり寝かされた。彼女のひざの上で。 「みちる・・・あまり人にジャンピングしてはいけませんよ・・・」 「うにゅ・・・ごめんなさい・・・みちるが悪かったよ」 「遠野じゃなくておれに謝れよ」 「ムッ  べーっだ」 こ、この野郎・・・って野郎じゃないけど。 しかし大分森の中に入ったな。ここってそんなに大きかったのか。 森の中を歩く・・・過去にもこんな経験があったろうか。 向こうでは相変わらず佳乃やみちるたちが騒いでいる。 こっちでは大人しげに話しかける有蟻化と、それにおろおろしながらも応えている観鈴。 おれはその会話を子守唄のようにして聞いている。 何やってんだろうなおれは・・・。 でも、こういう休息もいいものだと思う。 「そう言えば観鈴って父親はどうした」 「あ、往人さん起きてたんだ」 「ああ」 「うん、お父さんはね・・・最近こっちに来たみたい」 「近くにいるんですね」 有蟻化もすっかり会話に慣れたようだ。 「私、養子なんだ。お父さんは困った子の私を、お母さんの妹の晴子叔母さんに預けたの」 それはいつしか聞いた事がある。晴子と観鈴の仲のことを聞いた時だっただろうか。 「観鈴さんはそんな悪い子じゃないですよ」 有蟻化がそういった。おれも心の中で賛同した。 「でもね、お父さんはやっぱり私の事を心配してくれてて、引き取りに来たんだよ」 「優しいお父様じゃないですか」 ほら、これ、と観鈴がポケットから写真を取り出した。父の写真らしい。 「お前それずっと持ち歩いてるのか」 「にはは。私が元気になってお父さんに会ってから以来、ずっと」 おれはその写真の中の男を覗き込んだ。 「知っている顔・・・見た事がある、と言うか会った事がある」 「え、往人さんお父さんに会った事があったの?」 「霧島診療所の前で人形劇をしていた時にな・・・最もその時はお互い、 観鈴を知っているとは思わなかったけどな」 「複雑な運命ですね・・・」 そう言われればそうかもしれないな。 「それでね、私が病気になったときお父さんが家に来て、今のお母さん、晴子叔母さんとすごく大喧嘩してね。 この子はウチが育ててきたんや、この子が風邪で苦しんどる時にどっかほつき歩いてたあんたなんかに任せられるか って、すごく私のこと心配してくれてた。私、お母さんが言ってくれた言葉が嬉しかった」 おれはそれを知っている。だがその間の記憶が無い。おれは何をしていたのか。 有蟻化は静かにそれを聞いている。あまり他人にこういう話しなかったけど、観鈴は淡々と続ける。 「それに私、病気でも寂しく無かったよ。隣にはいつも、そらが居てくれたから―――」 「そら?」 有蟻化が空を見上げる。この空がいつも側に?と、疑問符を頭の中に並べているようだ。 「飛べない烏の子だよ、そらって名付けたんだ。人懐っこかった、可愛かった。にはは」  ―――― 「観鈴さんを親だと思ってたのかもしれませんね・・・」 「でも私に翼はないし、飛び方は教えてあげたけど」 「え?」 観鈴はその時の様子を思い出し、オーバーアクションなジェスチャーでそれを再現する。 有蟻化はそれが面白おかしくて笑っていた。 おれはそらの名前を聞いてから何か頭に引っかかっていた。 おれを『そら』と呼ぶ観鈴の声をずっと聞いていた気がする。 「その子は、今居るんですか?」 「ううん、居なくなっちゃった」 「寂しいですね・・・」 「ううんそんなことないよ、今は往人さんが居るから。にはは」 「恋人ですか?」 「うん」 「違う」 おれは即否定した。嫌と言う意味ではないのだが・・・観鈴はどうも恋人と言う感じではない。 あら、違うんですかと言いながら有蟻化は微笑んでいる。羨ましがってもいるようだが勘違いして欲しくない。 「往人さんは、大切な友達」 「私もその輪の中に入れるのでしょうか・・・?」 「私、人付き合いは苦手だけど、有蟻化さんなら大丈夫かも・・・」 そう言えば観鈴はもう普通に話していた。驚いた。今更と言う感じだが、今までではおれ以外にはなかった事だ。 「その烏の子は、空に居る子を助けに行ったのかもしれませんね・・・」 「え!?」 おれは痛さも忘れて飛び起きた。 「お前、空に居る少女の話を知っているのか?」 貴重な情報が意外なところから飛び込んできた。 観鈴は空に居る少女であって、そうではない。一心同体でありながら存在は個別なのである。 「いえ、おとぎ話に聞いた話ですけど・・・」 話に聞くと、その少女は呪縛から逃れられないらしい。 そのおとぎ話の延長線上におれが居るとすると、おれの能力は彼女の呪縛を解くためにあるのか。 しかし今はもうその能力は痩せ衰えてしまった。 ただ人形を思い通りに動かせるだけなのとどういう関係があるのか・・・結局どうすればいいのかわからない。 「今度、そらに聞いてみようよ」 観鈴がのんきな事を言う。しかし不思議と焦る感じはしなかった。 ここに観鈴が居るから。観鈴が笑っていれればそれでいい。おれはそんな気がしていた。 「さて、もうそろそろ戻るか」 佳乃たちを促しておれたちは元来た場所へ戻った。 くねくね曲がった道を歩いてきたせいか多少迷ったが、日が暮れる前に無事に森から出られた。 て言うかよく無事に出られたと思う。旅してきて身に付いた方向感覚のおかげか。 「今日は楽しかったよぉ〜!」 「ぴこー!」 「美凪ぃー!」 「みちる、お腹空いたね、帰ってご飯にしよう」 学校前の公園で、夕焼けに染まる皆に分かれを告げた。 「あの・・・今日は本当にありがとうございました。 転校初日に迷惑かけました」 「ううん、こっちも楽しかったよ、にはは」 観鈴ならもう大丈夫。有蟻化と一緒なら、残り少ない学生生活もやっていけるはず。おれがいなくても。 「往人さん、帰ろ」 「ああ」 でもおれは観鈴の側に居続ける事を決めた。 今までの20数年間の旅からしてみれば、今の一瞬は夢のよう。 「今までどーこほっつき歩いとったんやーっ!心配したで!」 「ただいま、お母さん」 「観鈴、お腹空いたやろ、どっか食べに行くか?」 「そんなお金うちにはないよ」 「大丈夫、そこに居るやろ」 「おれか!」 よし、今こそコレの出番だ。 ばっ! 「何やそれ」 「お米券だ。これで米10kgは買えるぞ」 「往人さん、お金持ち」 「金じゃないやろっ!あー結局今日も日干しとかかー」 「お前が稼いでるんじゃないのか」 「お前て言うなや、晴子と呼ばんかい」 「晴子」 観鈴が言った。 「お前じゃないわっ!」 「わ、つば飛んだ」 帰っても騒々しい。疲れるが、嫌ではなかった。 それから家では観鈴が作ったラーメンセットを3人で食べた。 ラーメンと米と玉子焼きだ。観鈴は意外と家庭的で料理が上手い。 晴子が今まで家事をやってなかったからだそうだが、晴子も料理が上手い。 飯を食べてTVを見て風呂入って、観鈴が寝てから晴子の晩酌に付き合わされた。 晴子が保健所で働いているところの出来事やグチを言い尽くし酔いつぶれ寝てしまった。 おれも寝るか。 観鈴も晴子も元気だ。ちゃんと自分の進む道を歩みだした。もう心配することは何も無い。 あとはおれか。もう少しで、目的も果たせそうだ。 それまで、もう少しだけ、夏休みが終わるまで、観鈴の側に居よう。 おれは街を出ても、観鈴たちのことは一生忘れない。 だが、それまでもう少しだけ、この幸せを・・・ 最後には、どうか幸せを・・・ おれは夢の中に落ちていった。 =================================================================== 転校生の続きです。 テスト前なのに即席で作ったやつです(汗)ぉ 元々前から構想はあったんですが、何故か書いてなかった いつもPCの前に居るのにね〜(汗) なんだかすごいスピードで作り上げたのでデバッグやってません。 デバッグじゃなくて読み直しかw 誤字とかあったら失敬堪忍です(^^ゞ では〜っw writing is 2005.1