『希望の力』 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― その後、まいは母と病室に戻ったが、佐裕理と一弥は近くの公園へ遊びに行っていた。 しかし、まもなく一弥は息苦しそうにしてきたので、病院へ戻ることにした。 時刻は夕刻。赤い夕焼けが色鮮やかに眩しい。 佐裕理の父も、一弥の様子を見に来ては、またすぐどこかへ行ってしまった。仕事だろうか。 佐裕理は、弟よりも仕事を取ってしまう父の事を残念そうに思った。 しかし、父の事も忙しそうだから、それは仕方がないと理解しようとしていた。 その夜は、一弥も息苦しそうな様子もなく静かな眠りについて、夜の病院の時間が流れていった。 そして次の日の昼、病院内を歩いていたまいと佐裕理は出会った。 「・・・」 「・・・」 お互いを見て、その様子を伺っているみたいだ。 「こんにちはっ」 始めに言ったのはまいだった。 「こんにちはっ」 佐裕理も挨拶する。 「ねぇ今度、いっしょに遊びに行こうよっ」 まいは、この頃はまだ、佐裕理よりも好奇心旺盛で元気で人懐っこい子だった。 「はいっ」 「? 敬語じゃなくてもいいよ、名前訊いても良い?」 「くらた さゆりです」 「かわすみ まいですっ」 「わたしの名前の字は、こうです」 佐裕理は持っていた紙とペンを取り出して、壁に紙を当てて書いた。 倉田 佐裕理。 「すごいっ、もうこんなむつかしい漢字書けるんだっ」 まいは素直に感心して驚いていた。 「あはは、頑張っています」 「そうだっ、私のお母さんを紹介するねっ」 そう言ってまいは佐裕理を母の居る病室へ案内した。 「あら?」 母は笑いながら驚いていた。 「まい、お友達ができたの?」 「うんっ、佐裕理だよっ」 「初めまして、くらた さゆりです。よろしくお願いします」 そう言って佐裕理はさっき書いた漢字の紙をまいの母に見せた。 「まぁ。これ誰が書いたの?」 「佐裕理が自分で書いたんだよっ」 まいが、佐裕理が言うよりも早く言った。 「お悧巧さんね、すごいわ」 まいの母は感心していた。 当の佐裕理は少しだけ照れていた。 「佐裕理ちゃん、親御さんはいらっしゃるの?」 「父は仕事で夜遅くまで帰ってこないので、代わりに私が弟の看病をしています」 まいの母は、佐裕理の丁寧な口調にまた驚いた。 「そう、偉いわね」 「わたしは?」 まいが母に尋ねた。 「舞もよ、みんな偉いわ」 母は楽しそうに2人を交互に見ている。 母にとっては、舞が丁寧な口調でなくとも、元気に育ってくれればそれでよいと思っていた。 「それじゃ、今度は弟の一弥を紹介します」 そう言って佐裕理はまいを連れて行った。 病室では一弥はやはり寝ていた。 「一弥、一弥、お姉さんにお友達ができたよっ」 まいから見て、佐裕理は弟だけには素直な自分を出しているんだと思った。 一弥はゆっくり瞼を開けた。 「一弥くんこんにちはっ。かわすみ まいですっ」 まいが自己紹介すると、一弥はにっこり笑った。言葉はないが、それが彼の挨拶なのだ。 「一弥はちょっと今からだが弱いけど、いつかいっしょに遊びに行くんです」 「大丈夫、絶対治るよっ。病気が治ることを、心から願うことができればっ」 まいは根拠はないが、自信たっぷりに言った。 それからと言うものの、まいと佐裕理は、母と一弥の看病を交互で看てあげたり 二人で協力しあっていた。時にはまいと佐裕理は遊びに行ったりしていた。 しかしある時を境に母と一弥は二人同時に深刻な状態となった。 「・・・」 「・・・」 まいと佐裕理は医者に任せる他なく、どうしようもなかったが、 自分は自分のできることをせねばとその間の看病にあたっていた。 しかし二人とも容態は悪くなっていくばかりで、手術が必要となってしまう。 後に来て聞いた佐裕理の父も、一弥の手術を認めた。 「大丈夫よ、お母さんは元気だから」 まいの母はそう言っていたが、辛そうなのは目に見えて分かった。 「一弥、大丈夫だよ、怖くないよ」 佐裕理も笑顔で言うものの、自分で言っていて不安は隠しきれなかった。 そして手術の日。 「まい、行ってくるわね、大人しく待っているのよ、大丈夫だから」 母はいつもの口調だったが、顔色は優れていないように見えた。 「一弥っ、一弥っ」 連れて行かれる一弥は静かに寝ている。 こんな時も仕事に忙しい父は現れなかった。 『手術中』 赤いランプが灯った。 それは夜。 暗く静かな室前に、まいと佐裕理2人だけ。 最初は大人しくしていたが、だんだん不安になってくる2人。 「大丈夫、大丈夫です」 佐裕理が自分に言い聞かせるように、焦る舞に言う。  大丈夫、絶対治るよっ。病気が治ることを、心から願うことができればっ それは確かな希望。 「そう言ったのは、まいさんなんですからっ」 「そうだね」 まいも佐裕理も目に涙を溜めていたので、拭って言った。 そして目を閉じて、手を合わせて祈った。 「だから・・・」  『2人の病気が 治りますように―――』 二人の頬を、雫が流れた。 すると、小さな二人の願いが希望の力となって神さまに届いたのだろうか。 『手術中』の赤いランプが消え、まいの母が横たわって出てきた。 次に一弥も出てきた。 そこに佐裕理の父も急いで現れた。 「先生、一弥は?」 父は即行で訊く。 「もう大丈夫です。手術は成功しました。後に善くなっていくと思われます」 「まいちゃんも、もうお母さんは大丈夫だからね」 看護婦がまいにも告げた。 「そうですか・・・うん、この子は?」 父は担当医の返事に安心した後、まいに気付いて佐裕理に尋ねた。 「わたしのお友達です」 「そうか佐裕理にもお友達ができたか、一弥とも仲良くやって行ってくれないか」 そう父はまいに言った。 「はいっ」 まいは元気よく答えた。 「それで・・・」 担当医が佐裕理の父に話し始めた。まいの母の事も、協力してくれるように話していた。 もちろん、佐裕理の父は了解していた。 「お父さんは忙しくて中々来れないが、2人が力をあわせれば大丈夫だよな?」 佐裕理の父は、まいと佐裕理の2人に言った。 そこはまいの母の病室だった。 「すみません、お世話になりました」 同じベッドに腰掛けているものの、母は前よりははるかに楽そうな状態だった。 佐裕理の父にお礼を言った。 「いえいえ、こちらこそ佐裕理がご迷惑をおかけしました」 「ご迷惑だなんてとんでもありません、助かりました」 父は佐裕理の頭を下げさせて、佐裕理も自分から頭を下げている。 「佐裕理ちゃん、ありがとうね」 それから母と一弥はみるみる回復していき、リハビリができるようにまでなった。 時々、母を車椅子に乗せて近くの公園まで散歩に行ったり、 一弥に病院内を案内したりした。 そして、待ちに待っていた退院の日。 季節は春。 「本当にお世話になりました」 まいの母と佐裕理の父は担当医にお礼を言っている。 側にはまいと佐裕理と、元気になった一弥が立っている。 医者側からすれば一つの家族のようにさえ見える。 「川澄さんにも本当にお世話になりました」 佐裕理の父がまいの母に頭を下げている。 「こちらこそすみません、本当に色々ありがとうございました」 まいの母も負けじと頭を下げている。 「一弥っ、これからどうしよっかっ」 佐裕理はこれから遊ぶことを考えているようだ。 習い事があるのだが、一日くらいサボっちゃえ。 「佐裕理も、すっかりやんちゃだな」 佐裕理の父は苦笑していた。だが、そのおかげで一弥も元気を取り戻せたんだとも思っている。 「それでは、私は仕事があるので失敬致します」 佐裕理の父はこれから用事のようだ。 「そうですか。それでは、本当にどうもありがとうございました」 「はい。また機会があったら家族共々よろしくお願いします」 そう言って佐裕理と一弥は父に連れて行かれた。 「さゆりーっ、かずやくーん、またいっしょにあそぼうねーっ」 まいは佐裕理と一弥とまたいっしょに遊ぶことを約束した。 佐裕理と一弥も、小さく手を振って応えた。 そして、まいにとっては久しぶりの自分の家。 母といっしょに掃除をしたり、家の整理をしたりした。 家を出たら佐裕理と一弥が近くの公園に行こうとしていたときもあった。 その時、佐裕理の家の住所を訊いたらここの近くだったので、お互いの家に遊びに行くようにもなった。 母が、まいと、佐裕理と一弥を借りて公園や動物園や遊園地へ遠足したりバスで行ったり、 遊びに行ったりすることもあった。もちろんその時は佐裕理の父に許可をもらっていた。 そして季節は夏・・・。 まいと佐裕理と一弥で、どこか遠いところまで散歩していたら、地平線が見えそうな気がするくらい 広い黄金の麦畑を見つけた。近くには自然や動物があふれる丘がある。 ここは遊び場に最適だった。かくれんぼしたりおにごっこしたり、みずでっぽうしたり、たくさん遊んだ。 「お姉さんはね、こう見えても運動神経は良いんだよ」 「本当だったねっ」 「でも、佐裕理は小さいから、かくれんぼの時見えなくてずるいよ」 「そんなこと言ったら、一弥もそうだよ」 だからはい、まいは近くの店で買ってきたうさぎ耳の髪飾りを3人で頭につけた。 「似合うよ、佐裕理」 「僕はどうかな・・・」 「一弥も可愛いよ」 一弥は照れていた。 そこに、一人の男の子が現れる。 「遠くから来たんだけど、どうしてこんなところで遊んでいるんだ?」 ここからまた、一つのストーリーが始まっていく・・・。 ===================================================================================================== 舞と佐裕理の過去番外編でした。 本作品のストーリーとは話が違いますが、2次作品ならこういうのもありかなと。 もうちょっと力入れたかったところですが、ダウンしました。 感想なぞまた下さい。