おれの名前は国崎往人。 生まれた頃より母と、空に居続ける少女を救うと言う、 先祖代々続く当ての無い目的の旅を続けている。 他人が聞けば、おとぎ話を信じている馬鹿な奴と思うかもしれない。 でも、おれたちは真剣だった。 旅の途中、母は死んでしまった。 それでもおれはこの旅をやめない。 これがおれの人生だから。 母の形見、思い通りに動く人形と共に、空に居る少女を救うまでは。 おれはもう、世間で言う大学生の年は過ぎている。 それくらいになった。 そして季節は夏。 おれはある小さな街に通りかかった。 そこには人懐っこい少女・神尾観鈴が居て、イヤにおれに付き纏う。 おれも、食い扶持がなくなってきたのでしばらくこいつの家に居候させてもらうことになった。 その街で出会う少女たち、遠野美凪や霧島佳乃。 遠野といつも一緒に居るみちると、佳乃といつも一緒に居る珍種犬のポテト。 途中で通ってきた街の出来事とは比較にならないぐらい、この町の出来事は特別だった。 本当に色々あった。 放浪癖で一つの場所に留まるのは性に合わないが、おれはしばらくこの街に留まった。 お盆の夏祭りも過ぎた頃、観鈴と遠野とみちると佳乃とポテトとおれで、 森の中に遊びに行くという約束がなされた。 おれとしては何の意味もない行動となるわけだが、どうしてか悪く思わないようになっていた。 『ふむ、キミなら安心して妹を任せられるな』 『居候っ、観鈴を頼んだで』 聖(ひじり)も晴子も、おれにあいつらを押し付けて、おれはあいつらの保護者かっ。 観鈴たちは、休み明けのテストのための補習が行われるとかで、大変らしい。 その気分転換の遊びと言うわけだ。 と言うことでおれ合わせて5人と一匹で森へ向かうはずだったのだが・・・ ----------------------------------- 『 転 校 生 』 ------------------------------------ おれは学校前の公園で、みちるやポテトと一緒に観鈴たちを待っていた。 「こいつホントに自分で動いてるの?」 「おれが動かしているんだ」 「うにゅ、手品かっ 国崎往人、ずるいぞ、人を騙しちゃいけないんだぞ」 「手品じゃない、糸もない、操り人形じゃないんだ」 「じゃぁこうしたらどうなるのかなぁー?」 どすっ! みちるは木の枝でおれの相棒を串刺しにした。 おれの相棒は力なくヘナヘナと萎れる。 「うがぁーーーーっ!!!どーしてくれんだよこのガキッ!」 「うにゅーー!国崎往人が動かしてるんならこれでも大丈夫だろーー!」 おだやかに話していても必ずどこかで言い争いになってじゃれあう。 おれもまだ若いな。ふっ。 ・・・ガキと同レベルなのがどうにも悲しい。 落ち込んでいると、観鈴たちが学校から出てきた。 すると一人、女が多い。 「誰だそいつは」 おれは露骨に気分が悪そうなと言う具合の態度を取ってしまったが、別に気に入らないというわけではない。 旅をしてきたおかげで、決定事項が違うと疑ってしまうのだ。 「今日転校してきた静野 有蟻化(しずの あぎか)さんでございます〜ぱちぱち」 遠野がいつもの口調で新人を紹介している。 背は普通で濃い紅色をしたセミロングの髪にシアン色の目をしている。 そこは印象的だが、全体的には何ともインパクトのない感じではある。 「ねぇねぇ、漢字はなんて書くのぉ〜?」 佳乃とみちるが興味津々そうに聞いている。 「あの・・・こう書きます」 彼女は落ちている木の枝で公園の地面に自分の名前の漢字を書いた。 彼女は見た目元気そうだが大人しい。少し遠野に似ている感じだ。 「わぁー読めない〜珍しいねぇ〜かっこいいねぇ〜ポテト?」 「ぴこっ」 「ポテトもかっこいいって!」 「そんな・・・ありがとうございます」 「どうしてお前はポテト語がわかるんだ?」 「親友だからだもんね!ポテト!」 「ぴこっ!」 「・・・」 と、とりあえず。 「おれは何て呼べばいいんだ?」 「あ、あの、有蟻化でお願いします・・・」 「呼びにくいけど・・・じゃぁ、有蟻化」 「はいっ」 わいわいやっていると、観鈴は遠くから眺めているだけだった。 「おい、皆と行くんなら皆の輪の中に入れよ」 「え、いいよ私は・・・」 「いいから行けっ」 「え、わっ」 おれは観鈴を皆の方向へ押してやった。 「あ、あのっ・・・」 「かみかみも一緒にお話とかしようよっ!」 「そぉうだよっ!神尾さんも楽しまないとダッメだぞーう!」 「ぴこっ!」 「神尾さん、一緒にいくでござる・・・」 皆、観鈴と仲良くしたがってるじゃないか。 「え、えっと、私・・・」 観鈴はおろおろしていたが、 「観鈴さん、私初めてなのでわからない事も多いですけどよろしくです・・・ と言うか、観鈴さんって呼んでいいんでしょうか・・・?」 と有蟻化が観鈴に話しかけたら 「うんっ」 観鈴が笑った。おれ以外の人に、笑顔を向けた。嬉しかった。あいつが喜ぶ顔を見るのは。 ちょっと悔しいけどな。 と、言うわけで珍名の新キャラも加わって、おれ合わせて合計6人と一匹の遊びが始まるわけだ。 幼稚園の遠足かよ。 5人の女子供とおまけに訳の分からない地球外生命体の世話をしなければならないのか。 「神社の奥にある森に行ってみようよ!」 好奇心旺盛な佳乃が大将気取りで皆をいざなう。 おれはしんがりだ。 佳乃、ポテト、みちる、遠野、有蟻化、観鈴、おれ と言う、見事な縦の陣を築いている。 「有蟻化どのは・・・どのような理由でこちらに参られたのでおわすか・・・?」 「え・・・?」 遠野が、今日は妙なテンションで新人に話しかけている。 「遠野、普通に話してくれ」 「これはこれは失礼しました・・・」 「あ、いえ・・・私は父の仕事の都合でこちらに参りました・・・」 「そうでしたか」 「観鈴さんのお父さんって、どんな方ですか?」 「え?お父さん?え、えっと・・・」 観鈴の口調は未だぎこちない。まだ慣れていないのだ。 そう言えばおれもこいつの父の話は聞いた事がない。晴子ならただの飲んだ暮れだって知ってるが。 「うん・・・」 観鈴は黙り込んでしまった。おれもこいつの父のことは知らないから、フォローのしようがない。 「こいつ、他人と話すのに慣れてないんだ」 「私も昔はそうでした・・・」 有蟻化は自分の事を語りだした。性分が大人しい故にあまり反応しないため、 小学時代はいじめられて一人だったことなど・・・ 有蟻化は何となく観鈴に似ているところがある。遠野と観鈴が合体したような感じか。 ・・・想像したら気持ち悪くなった。水が欲しい。 「私と観鈴さん、気が合いそうです」 「え、そ、そうかなぁ・・・」 「おいおい、有蟻化はお前に気があるんだぞ。快く受け止めてやれよ」 「う、うん、観鈴ちん、がんばるっ」 観鈴は、ふぁいとふぁいと、おー と自分を元気付けた。 先頭を歩いていた佳乃やみちるたちも、その様子を見て笑った。 こういう情景を見ているのも、悪くないな。 いつしか森の初頭に入った。 そこにはありきたりの昆虫や、見慣れない昆虫が居た。旅で見たことある虫も結構いた。 夏でも長袖なのは昆虫対策だ。あと、効きすぎた冷房か。 と言うか、服がこれしかないんだ。荷物になるから。貧乏だからじゃないぞ。 毎日ラーメン食えるんだからな。 泣けてくるからこの話は止めよう。 「わぁー!」 佳乃やみちるは、予想通り大はしゃぎで、木に登っている虫をまじまじと見たり捕まえたりしていた。 そして地面に置いていった。 虫たちからすれば、せっかくあそこまで登ったものをいい迷惑だったろう。 ポテトは・・・ 「ぴこ〜・・・ぴこっ!」 !? 何だ、今何が起きたんだ!? ポテトが地面にいるカブトムシサイズの昆虫を見つめた後、目が光ってその虫が消えたぞ! まさか、マッハで食べた?犬って昆虫食ったっけ!?怖ぇぇ〜。 「わぁぁ〜・・・カブトムシさん」 観鈴は感心そうに、木に登ったカブトムシを見ている。その手を伸ばした瞬間、 「きゃぁっ」 カブトムシは水をばらまいて飛んで行ってしまった。 「う〜」 「汚れたな」 「大丈夫です、カブトムシのおしっこはそんなに汚くないんですよ」 有蟻化が説明した。 「観鈴さん、ちょっとゴメンナサイ、見ていてくださいね・・・こうやるんです」 「わっ」 有蟻化は観鈴の一歩手前に出て、別の、木に登っているカブトムシに狙いを定めた。そして・・・ がしっ。 っとわしづかみ。おおっ。 「お見事お見事、ぱちぱちぱち」 「ほら」 って、グーでにぎり潰してないだろうな。 と心配したが大丈夫だった。カブトムシは有蟻化の手の中でもそもそと歩いている。 「カブトムシは素早いので、こちらも素早くしないと捕まえれないんですよ」 そう言って、有蟻化は観鈴にカブトムシを渡した。 「わ、可愛い・・・にははっ」 観鈴はご機嫌のようだ。本当に子供っぽいな。 「有蟻化って虫はニガテじゃないのか?」 「自然は大好きな友達ですから」 そう言って有蟻化は微笑んだ。いい心を持ってる。遠野の出番がないじゃないか。 「はーやくしないと置いていくよぉーっ」 先のほうで佳乃たちが急かしている。 全く、疲れを知らないやつたちだ。 おれは観鈴たちの背中を押し、彼女らについていった。